一般的な音楽ファンにとってブルースというのは、シングル・モルトやホヤなどの珍味と同じで、これは旨いんだ、と自分に言い聞かせて一生懸命食べているうちに、気づけば好物になっている、といった種類のものだ。
だから<From the Cradle>は、<Unplugged>の成功に気をよくしたワーナーが、減価償却できればいいよ、みたいな感じでゴーサインを出したのかもしれないが、『Tears In Heaven』を期待して購入した新しいファンには、ちとキツかったのではないかと思う。
そんななかにあって後半の山場をつくっている『It Hurts Me Too』は引き込まれる。このバージョンでは、メリハリのあるスライド・ギターとボーカルを核として、堂々としたアンサンブルに仕上がっている。
ボックス『Crossroads』で聴ける<There's One In Every Crowd>のアウト・テイクのバージョンが、アウトサイダーの底深い憂鬱を感じさせたのに比べると、こちらはまるで王者の行進といった風格だ。
このようにして1曲1曲微妙な違いを味わう作業を16回も楽しめるのだから、ブルースが苦手で投げ出してしまったファンの方も、ぜひもう一度<From the Cradle>にトライしてみて欲しい。

■収録アルバム< From the Cradle ( フロム・ザ・クレイドル )>