ぼくが中学生だった70年代半ば頃、いわゆるオーディオ・ブームというのがあった。戦後の高度成長政策もほぼ達成され、一家に一台、あるいは進学した息子の個室にもう一台、オーディオ・セットを購入できるほど日本全体が豊かになったというわけだ。
当時流行ったのは、標準化された入出力インタフェースにより、プレイヤー、アンプ、スピーカーといった各パーツを別々のメーカーからチョイスして組み上げることができるコンポーネント・ステレオというタイプ。メーカーが推奨する組み合わせをセットにしたものを特にシステム・コンポーネントと呼び、ユーザー側がバラバラにチョイスしたセットをバラコンなどといったりもした。
いまのPC世代にとってオープン規格は当たり前だが、当時はメーカーを気にせず好きなモデルを選べるというのは画期的で、毎夜カタログを広げては買えもしないベストの組み合わせを夢想したものだ。
どれほどのブームだったかは、国内家電メーカーのほとんどが、オーディオ専門のサブブランドを立ち上げていたことからもその一端が伺える。三菱はダイヤトーン、日立はローディ、東芝はオーレックス、松下はテクニクス、シャープのオプトニカ、サンヨーのオットーなどなど。これらがサンスイ、トリオ、オンキョー、ソニー、ビクター、パイオニア、デンオン(日本コロムビア)といった専門メーカーと入り交じり、さらにマランツ、ラックス、JBLなどの単品ハイエンド系海外勢も加わって、電器店のオーディオ・コーナーはまさに百花繚乱のにぎわいだったと記憶する。
そんなわけでようやく念願のコンポを手に入れた高校時代には、「レコーディング・エンジニアが意図したものに最も近い音像を定位するには、リスナーを頂点として二つのスピーカーとの位置関係を正三角形にするのが望ましい」などのウンチクをバカ正直に実践し、一歩も動かず『ねずみといのしし』を頑張って聴いたりしたものだ。<クリームの素晴らしき世界>発売からすでに10年が経過していたが、ハードなロックをバックに詩の朗読というのはずいぶんと衝撃的で、忘れられない一曲となった。
"語り"の入った曲というのは、そのほとんどが恥ずかしくて聴くに堪えないものだが、この曲と井上陽水の『桜三月散歩道』だけはなぜか抵抗なく聴けるから不思議だ。
話がそれた、というかこちらが本筋なわけだが、やけに長文になってしまったので今回はこのへんで筆を置くことにしたい。
※コメントでご指摘いただいたとおり、ラックスは国産ブランドでした。失礼しました。(4/17)

■収録アルバム:< Wheels Of Fire ( クリームの素晴らしき世界 ) >