「裏方には興味がなかった」という、いかにもな演出のクラプトンのセリフに続いて、核実験の衝撃映像と共に『英雄ユリシーズ』がガンガン鳴りだすのが、映画『トム・ダウド/いとしのレイラをミックスした男』のオープニングだ。
いつもは訳詞を読んでもちっとも意味の分からない難解なマーティン・シャープの歌詞だが、妙に歌詞にマッチした映像のコラージュがスコセッシかと思わせるほど格好良く、どちらかというとマイナーな『英雄ユリシーズ』に新たな解釈の余地を与えている。
なんで核実験なのかはストーリーを追っていくうちに明らかになるが、主題はやはり"音楽の裏方"のリアル・ストーリー、ということだろう。
ぼくらは最初、楽曲そのものの魅力でアーティストを好きになってCDを購入したりするわけだが、何かのきっかけで"裏方"の楽曲に占めるウエイトの高さに気づくことになる。
おなじみジョージ・マーティンやフィル・スペクターはもちろん、「オレはツェッペリンで食ってるんだ!」というメッセージをその巨体から自信満々に発していたピーター・グラント、4人目のクリームことフェリックス・パパラルディなどなど。
やはり最初に目に付くのは花形プロデューサーであり、レコーディング・エンジニアというのは仕事内容の重要さに反して全くと言っていいほど目立たない。ぼくにしてもすぐに名前が挙がるのはトム・ダウド以外ではジャズの名門レーベル「ブルーノート」に貢献したルディ・ヴァン・ゲルダーぐらいなわけだし。
アトランティック時代のコルトレーンのインナースリーヴにトム・ダウドの名前を見つけて、あれ、クラプトンと同じだなあ、とは思っていたけれど、ぼくのなかでモダン・ジャズとロックは全く切り離された別々の世界だったため、深く追求することもなく今日に至ってしまっていた。
今回この映画を見たことにより、その分断が解消され、ぼくのコレクションの中で大きな面積を占めるコルトレーンとクラプトンがひとつの太い線でつながった。
優れた仕事人は、カテゴリーや時代の壁を崩し、"いい音楽"というただ一つの指標をもって、ぼくの脳内マップの再構築を促進したのである。

■収録アルバム:< Disraeli Gears ( カラフル・クリーム ) >