ロックを聞き始めの頃、ホーンが入っている曲にはなんだか抵抗があって、イマイチ好きになれなかった。
なんでだったのかと四半世紀も前の自分を振り返ってみるに、概ね次のような理由によるものだったように思う。
まず、ぼくがロックを好きになった原因のひとつとして、ミュージシャンたちが学校にはない楽器を使っていた、というところにカッコ良さを感じたことがある。エレクトリックのギターとベース、電気ピアノやシンセ、でかいバスドラのついたドラム・セット。これらは基本的に当時の学校の音楽室にはないものだった。
音楽の先生の管理下におかれた優等生のブラスバンドにはゼッタイにできない大音量のラフな演奏。音を一音間違えただけでNGを出される練習の息苦しさとは無縁のワイルドさ。少人数の傑出した個人による自由気ままな演奏がロックなんだ、と。
だから、ロックにサックスやトロンボーンなど優等生の楽器が入ってくると、なんだか曲が急にこぢんまりとして学校くさく感じられた。複数のホーンが和音を構成してオブリガードを入れたりすると、集団の空気を感じてゲンナリしたりもした。
さらに、感情を抑制してフレーズにすべてを込めるようなロック・ギターに比べて、人間の喜怒哀楽をそのまま音階にしたようなホーン独特のあけすけな節回しがぼくの性格的にどうにも気恥ずかしかったということもあった。
そんなわけで、ホーンが受け持ちそうなパートを強引にギターだけでやっちまおうというジミー・ペイジが大好きで、ジョン・ポール・ジョーンズが奏でるメロトロンのストイックさにもとてもあこがれた。「オレたち4人で全部やるんだっ」という気概に魅了された。
ネイディブ・サンが現れたときにはワウのかかったホーンにノックアウトされたが、結局一番好きだったのは後半に長いギター・ソロがフィーチャーされた『サバンナ・ホットライン』だったっけ。
やがてコルトレーンなんかを聴くようになり、いまではサックスはギター以上にイカした楽器と思うこともしばしばだが、なぜか未だにロックにホーンが出てくると、ちょっと退き気味になってしまうことは変わっていない。
というわけでホーンがちがちの『スランキー』との葛藤は、いまだ完全には解決していないのである。

■収録アルバム< Eric Clapton ( エリック・クラプトン・ソロ )>