８３年発売の＜マネー・アンド・シガレッツ＞と、８５年発売の＜ビハインド・ザ・サン＞の間の空白を埋めるのが、この８４年発売のロジャー・ウォーターズのソロアルバム＜ヒッチハイクの賛否両論＞だ。
＜マネー・アンド・シガレッツ＞がギターのトーンにこそメリハリと力強さが復活していたものの、あくまで「復活した」のであって表現の幅は従来型クラプトンを少しも超えていなかったわけだが、＜ビハインド・ザ・サン＞ではコンテンポラリーなサウンドにフィットしたこれまでにない豊かなフレーズ展開をアルバムの随所で聴くことができる。
その華麗なる変身の謎を解くカギのひとつがこの＜ヒッチハイクの賛否両論＞でのクラプトンだろう。
ロジャー本人をはじめ、マイケル・ケイメン、デヴィッド・サンボーンなど優れたメンバーにインスパイアされたのか、とくにこの『心のヒッチハイキング』ではリズミカルに変化するコード進行に合わせてフレーズが生き生きと歌っていて、まさに新生クラプトンの萌芽が見てとれる。
ハイライトのギターソロでは、＜安息の地を求めて＞の『メイク・イット・スルー・トゥデイ』のフレーズをなぞった前半からコード進行に沿って盛り上がっていき、アルバム全体の頂点と重ね合わさっていく展開は圧巻で、思わずこの曲だけリピートしてしまう。
まあぼくの場合、残念ながらロジャー・ウォーターズのファンではないので、アルバム全体を楽しむというよりは、ここの盛り上がりを楽しむために頭から聴き始める、といったようなものなんだが・・・。
おまけにもうひとつ辛口でいっておくと、この「有名な」ジャケは昔からいまひとつ「何だかなあ」なのである。カタい人が無理してエロにチャレンジすると、やっぱりこのようなツラい結果になる、ということの好例であろう。

■収録アルバム＜ The Pros and Cons of Hitch Hiking （ ヒッチハイクの賛否両論 ）＞