今週月曜日、6月19日は作家・太宰治を偲ぶ「桜桃忌」だった。ただし実はこの日は命日ではない。玉川上水に愛人と入水心中したのは6月13日夜だが、遺体が発見された日が、たまたま太宰の誕生日である6月19日だったことにちなんでのことらしい。
ところで、天才芸術家の性癖がしばしばステレオタイプであるのは周知のことだが、太宰治とクラプトンとの類似点も例にもれない。
太宰が一番うまい小説家になりたかったように、クラプトンは「ブルースギター」で世界一になりたかった。そしてふたりともアルコールと薬におぼれ、何人もの女性のあいだを渡り歩いた。熱烈なファンと、少なくない否定派の存在。
ところが実は全く違う点が1点ある。
それはクラプトンが、60歳を過ぎてなお元気に生きて活動し続けているということだろう。
太宰は39歳で亡くなってしまった。心中ということで、巻き添えにしたのかされたのかは永遠の謎だが、志半ばにして亡くなってしまったことには変わりはない。
クラプトンが39歳といえばロジャー・ウォーターズとのコラボレーションの時期で、この時期からギタースタイルに大きな変化が生じたことは前回の記事で書いた。
そこには、ユングが提唱した「より自分らしいあり方を実現していく人生後半の仕事」にシフトする時に訪れる、いわゆる「中年の危機」を乗り切ることができたクラプトンと、それに失敗し「永遠の青年」となった太宰との違いを見てとることができる。
デビューアルバム<ファイブ・ライブ・ヤードバーズ>からほぼ30年後に再演された『ファイブ・ロング・イヤーズ』は、ギターフレーズに関してはさして聴くべきところのない手グセでの演奏だが、自らの思うがままにのびのびと演奏しているあたりは、まさに危機を乗り越えた中年の貫禄といえるだろう。

■収録アルバム< From the Cradle ( フロム・ザ・クレイドル )>