私事でまことに恐縮ですが、このたび新天地を求めてここを去ることになりました。
今年に入って、どちらかというと親しい人たちから複数のこうしたご連絡をいただき、なにかと落ち着かない日々をすごした。
実際にこのようなメールを残して会社を去った方もいれば、無言のままおそらくは二度と出会えないであろう彼の地へと旅立たれた方もあった。
ふだんぼくたちは今日と同じ人間関係が明日も同様に継続する、という前提のもとに何かを考えたり行動したりしている。
だから時として、ある関係に拘泥してしくしくと身を削る葛藤に見舞われてキリキリと日々を過ごしたりしているわけだが、それが永遠ではないこともまた、このようにして何度も学んできたのだ。
ところで、人への賛辞は、概ね退屈なステレオタイプに終始するのに対して、悪口というのは実に活き活きと、流れるように、終わりなく続き、しかも聞く人を飽きさせない。
そしてなぜか、その人が自分の生活ドメインからいなくなった後、あるいはいなくなってしまうとわかった瞬間に、あれほど泉のように湧き出ていた悪口が、ぱったりと止まり、そのネガティブな感情の起伏を思い出すことすらできなくなってしまうのである。
おそらく悪口をいうということは、その人から何かしら生のエッセンスとでもいったものをいただいているということなのかもしれない。
賛辞は往々にして生真面目に過ぎるが、悪口にはいつも笑いがある。
人との関係がとぎれるということは、自分を生かしてくれているエネルギーが部分的に、あるいは修復不可能なほどに失われてしまう、ということなのだろう。

■収録アルバム< Rush ( ラッシュ )>