ワーナーの世界戦略にのっとって、誰にでも判りやすい平易な英語でつづられた歌詞は、聴いている方が思わず恥ずかしさに頬を染めてしまいそうなストレートな内容。
佳作『ワンダフル・トゥナイト』がシニカルな解釈の余地を残した印象的な歌詞を展開しているのに比べると、こちらはいかにも表層的なラヴソングとなっていて少々物足りなく感じる。
おそらくはワーナーに、復帰後第一弾に華を添えた『レット・イット・グロウ』のようなバラードナンバーを移籍第一弾にもよろしく、といわれてインスタントに作り上げた楽曲なのかもしれない。
そんな勘ぐりとは裏腹に、エリックの演奏は美しく繊細な仕上がり。バッキングやオブリガードもひとつひとつ丁寧にフレージングしていて、流れるようなアコースティックのソロも秀逸だ。
さらに、コッ、コッというアタック音が気持ちいいドナルド・ダック・ダンのカッチリしたベースが曲全体を引き締め、新生クラプトンの良い意味での緊張と決意をリアルな感触でリスナーに伝える役割を演じている。
しかしながら一方で、この『プリティ・ガール』がエリック自作曲の限界を象徴していて、今のままではもうこれ以上の進歩は見られないのではないか、という危惧を多くのオールド・ファンに抱かせる結果となった。
そうした空気はやがて動かしがたい事実としてエリックに変革を要求し、2年後にはフィル・コリンズに力を借りてのクラプトン・サウンドのパラダイム・シフトとでもいうべきトピックに結実していく。

■収録アルバム<マネー・アンド・シガレット>