86年発表の<オーガスト>は、70年代を彷彿とさせるオープニングの『ザ・ギフト』のあと、一転80年代アダルト・コンテンポラリーにどっぷり染まった『ラン』へと続く。
前作よりさらに前面に押し出されたシンセサウンド、黒人ネイザン・イーストのチョッパースタイルのベース、そして威勢の良いホーン・セクション。
その衝撃といったら、カトリック系の厳格な私立に通わせている娘が、渋谷で半ケツ出してヒップホップを踊っているところを偶然見てしまった両親、といった感じだろうか。
とはいえ、曲良し、ノリ良し、のこの曲を否定するだけの理由も見あたらないし、ステージでも仏頂面でバックに引っ込んでいる70年代ロックスタイルのベースよりは、派手なアクションをかましてクラプトンをぐいぐい煽るネイザンの方がよっぽどイカしてる、といった見方もあるだろう。
この曲が好きか嫌いかで、以降のクラプトンを評価するかしないか、ファンであり続けるか離れていくかが分かれるのではないだろうか。
ところで<オーガスト>には見落としてはならない重要なポイントがある。
それはソロ活動をはじめて以降、常にサポート・ギタリストを参加させてきたクラプトンが、はじめて自分1人だけでギター・パートを担ったアルバムだ、という点だ。
スーパー・ギタリストの称号を嫌い、あえてハイライトをゲスト・ギタリストに任せるようなニヒリズムに満ちた70年代を経て、十数年ぶりにギター1本でレコーディングに望んだ勇気と決断には敬意を表したい。
かなり気合いの入ったギターフレーズが、サウンド全体のバランスを重視したんです、といったミックスのせいで後ろに後退しているのが悔やまれるが、それにしてもヒズ・バンド時代から比べるとしっかりと自立したクラプトンが感じられて、親でなくてもホッと一息、といったところか。

■収録アルバム<オーガスト>