エリック・クラプトンより4つ年上のワルい兄貴がカリフォルニアのシャングリラ・スタジオにふらりとやってきて、ぶっつけ本番でレコーディングしました、といったイメージがぴったりの『サイン・ラングウィッヂ』。
歌い出したとたん場の空気をがらりと変えてしまうディランの圧倒的な存在感は、Sirポール・マッカートニーにも引けを取らないだろう。
そんなディランの超マイペースにまじめにつきあうと結構疲れてしまい、次の『カウンティ・ジェイル』でちょっと息抜きさせてください、といったジョークでもかましたくなるところ。
とはいえ全体的には、ロビー・ロバートソンのアタック音の効いたギターソロに、ザーンッとルーズにかぶってくるエリックのスライド・ギターもいい味を出していて、ギター・バトルなどといった言葉とは縁遠いリラックスしたアンサンブルが楽しめる。
ところで、『サイン・ラングウィッヂ』が収録された<ノー・リーズン・トゥ・クライ>が発売された1976年というのは、色々な意味でロックにひと区切りがついた年で、同年11月、同じカリフォルニア州のサンフランシスコ・ウインターランドで行われたザ・バンドの解散コンサート『ラスト・ワルツ』で、エリックは、ザ・バンドの面々やディランと再び対面することになる。
そして奇しくも翌12月、「ロックの終わり」を象徴するといわれるイーグルスの『ホテル・カリフォルニア』が発売されるのである。
ちなみに、翌77年にはセックスピストルズが<勝手にしやがれ!>をリリース。同年、レッド・ツェッペリンとローリング・ストーンズはスタジオアルバムを発表せず、それぞれ78年の<イン・スルー・ジ・アウト・ドア>、<女たち>まで待つことになる。どちらもシンセやディスコなど流行のサウンドを大胆に取り入れたアルバムとして物議を醸したのは周知の事実だ。

■収録アルバム<ノー・リーズン・トゥ・クライ>