今年はあっという間に冬が来た感じで、いつものように秋の気配のなかに<ジャーニーマン>を楽しむ、という機会がなかった気がする。
それでも、ディスコグラフィーの曲目リストを眺めるだけで、あの80年代末から90年初頭にかけての秋の記憶がまざまざと蘇ってくる。
夜ごと歌舞伎町で過ごした日々や、バブルの勢いに乗ってコピーライターとして広告業界に転職したこと、武蔵野のつめたい夜風が枯葉をカラカラと転ばせる中ひとりで夜半過ぎに歩き続けた高円寺の路地裏。
晩秋に発売されたせいか<ジャーニーマン>はそんな過去の孤独と郷愁を追体験できる思い出深いアルバムだが、あらためて特筆すべきはジェリー・ウイリアムスの曲がなんと5曲も含まれていることだ。
まるでサイドA全部が大瀧詠一の曲で裏ロンバケと呼ばれている松田聖子の<風立ちぬ>や全曲筒美京平!の松本伊代<オンリー・セブンティーン>といった風情だが、エリック・ファン以外にはさほど有名なライターでないところが逆に不思議さを際だたせている。
そんなジェリーの曲の中で一番地味でありながら飽きの来ない佳曲がこの『エニシング・フォー・ユア・ラヴ』。
キーチューン『プリテンディング』と戦略曲『バッド・ラブ』に挟まれて忘れ去られがちだが、もったりと始まるスローなイントロが<ジャーニーマン>のイメージに大きく関与していることも事実だろう。
というわけで全くの余談だが、曲名からエニシングを取ると、ヤードバーズのいわくつきのシングル、『フォー・ユア・ラブ』となるのが笑える。

■収録アルバム<ジャーニーマン>