JJケイルを初めて聴いたのは1982年で、その頃ぼくは大学にも顔を出さず、ひとり渋谷の街をぶらぶらしていたのだが、そんな折り良く立ち寄ったのが宇田川町のタワーレコード(今は移転)だった。
その日も既に全部もっているツェッペリンのコーナーでわざわざジャケを手にとって眺めていたりして時間を潰していたのだが、「コカイン」「アフターミッドナイト」のJJケイルのニューアルバムがリコメンドコーナーに平積みになっていたので中身も確認せず即購入、となったしだいだ。
家に帰って針を降ろし1曲目の「シティ・ガール」が流れてきたときは衝撃だった。モコモコした甘いギターのトーン、ハスキーなボイスにありがちな攻撃性が皆無のリラックスしたボーカル、曲全体を通して醸し出される何というかけだるい雰囲気。そして幼少期の想い出がフラッシュバックするかのような、何か泣き出したくなる郷愁。
エリックのカバーからは想像もつかなかった未知のサウンドにぼくは入れあげて、しばらくはその「グラスホッパー」というアルバムばかりを聴いていた気がする。
あれから実に四半世紀。そんなJJケイルとアルバムまるごとコラボした「ロード・トゥ・エスコンディード」のオープニングを飾るこのナンバーは、当時の衝撃と甘やかな感傷を再度トレースするに充分なほど魅力的だが、一方であの日には二度と戻ることは出来ない、という事実をもぼくの心にしっかりと刻みつけたのである。

■収録アルバム<ロード・トゥ・エスコンディード>