手塚治虫の最高傑作となると、大抵はアトム、ブラックジャック、火の鳥、といったところが挙がってくるのが常だが、個人的にはバンパイヤである。1966年〜67年にかけて少年サンデーに連載されたのだが、その時期はアメリカのヒッピーたちによるサイケデリックムーブメントの盛り上がりと同時期だ。そうした視点で見ると、規則やモラルにしばられず好き放題やろう、という間久部緑郎(通称ロック!)の生き方はもとより、人間が原始人にもどれば法律やお金も不要になり醜い戦争はなくなると説く熱海教授やバンパイヤ革命委員長の円山氏など、ヒッピーの思想と共通した人間批判が物語全体のテーマとなっていることに気づく。しかもアメリカで流行っているクスリとしてLSDが実名で登場するシーンさえあるのだ。再読の機会があれば、ぜひクリームの『World Of Pain』あたりをガンガン流しながら楽しんでみてはいかがだろうか。
バンパイヤについて話し出すとそれだけでかなりの分量になってしまうので、そこそこに割愛して、今回の主題は、永井豪ちゃんのデビルマンはバンパイヤが下敷きである、という話。クラプトンの話でなくてごめんなさい。もちろん盗作とか言うことではなく、村上春樹の「羊をめぐる冒険」がチャンドラーの「長いお別れ」を下敷きにしている、というのと同じ意味で、である。
永井豪が手塚治虫に影響を受けたことは周知の事実だし、そもそも人間でも悪魔でもないデビルマン自体が、人間でも動物でもないバンパイヤ、の発展型であるし、それぞれ悪と善の象徴でありながら惹かれ合う了と明=ロックとトッペイ、最終的に人類全体を巻き込んだ壮大な展開になっていくストーリーも似ているのだが、細かいところの類似点を今回再読してたくさん見つけてしまったのでいくつか列記してみたい。

冒頭とクライマックス直前に飛鳥博士の研究所
→冒頭とクライマックス直前に熱海教授の研究所

魔王ゼノンの世界同時総攻撃
→世界同時バンパイヤ革命

サイコジェニーが了に見せる幻覚
→変態型バンパイヤがロックに見せる幻覚

デビルマン軍団の決起集会
→バンパイヤ革命の決起集会

テレビで不動明の変身シーンが暴露され「あなたの隣人も悪魔」
→テレビでルリ子の変身シーンが暴露され「あなたの隣人もバンパイヤ」

悪魔特捜隊「ひょっとしたらこいつも悪魔かもしれんなー」
→ロック(人間)に対して群衆が「しっぽをださねえか、ばけもの!」

明「地獄におちろ、人間ども!」
→ロック「くだらない1億の人間ども!」

他にもまだまだある。もちろん各人の善悪の立ち位置は逆だったり、なんといってもラストが決定的に違うので比較自体意味がない、という考えもあるだろうが、それぞれのシーンを読んでいると直感的に、あっ、同じだ、と感じてしまうのである。特に変身の秘密を衆人環視のテレビ放送で暴露されるクライマックスのモチーフはほぼ同じだ。デビルマンの連載開始はバンパイヤの5年ほど後なので永井豪の無意識にストックされていたのか、あるいはバンパイヤみたいなストーリーを描いてみたい、という思いで書き進めたのかなのだろう。
いずれにしろ僕という人間の形成に多大な影響を与えた二人の巨匠に改めて敬意を表したい。

■収録アルバム:カラフルクリーム